Mama-チャリカルキ vol.8「デリリオ」より

おい、あいつはどこに行ったんだ？と私の夫、チャーリー軽木が息子に聞いている。
珍しく私が家に居るのにあいつは、なんてブツブツ言ってみる。
随分偉そうだけど、そんな感じだものねいつも。
「知らないよ。」と息子は答える。
玄関先にうずくまって目も合わせないけど、あたしの行方を知ってるわけじゃなくて、父親の左右の靴紐を結んでつなげるいたずらに熱中してるだけ。
「バーバラさんに聞いてみるよ」と元気よく外に出る。
うん、うまくできた。

「どこ行ったのプッかひらねえ？ははにゃにゃないへえ」入れ歯が途中で飛び出しちゃって、バーバラは何言ってるかわからない。
ブーリは「それより俺の店の菓子に鼻くそを付けた犯人を捜してるんだがな」と低い声で息子を睨む。
うん、こんな感じ。
郵便配達のテビオも「どこ行ったんでしょうねえ痛てー！」。
これはグラハムさん家のハップに足をかじられたから。
「知らないわ。うぷ」ジャネットは今日も車酔いが激しい。
「うわーん」アビーはなんだか怖くなって泣く。
フェリシアは街中のマンホールの蓋や車をひっくり返して探す。
「本日未明、チャーリー軽木さんの奥様が居なくなりました。」ニュースキャスターはきりっとした感じ。
「ンダバ！」地球の裏側で部族の長は何か気づく。
そう…もう世界中のニュースになってる…。
「あたしが居ない。」

街中の、国中の、この世の全ての人々が、あたしを探す。
その全部をあたしが演じている。
自分でもびっくりするくらい、本人になりきって。
でもあたしはどこにもいない。
その内みんな怒り出す。「こんなに探してるのに！」「心配かけて！」
世界中の人になって怒りながら、でもそれに忙しくてあたしは出るに出られなくなってる…。

っていう夢を見たんだけどどう？
え？…聞いてなかったのチャーリー？

居間にて
チャーリーの妻