チャーリー軽木の妻の記録(パンフレットに寄せたコメント)
そうよ、夫は演出という仕事をしてるの。名前はチャーリー。祖母が東洋系なの。
そのご縁からかしら、たまにその国に行ってお芝居の演出をやってるのよ。
私?私はチャーリーの妻の…え?ああ、この格好?
これはその東洋の国の代表的な職業「ドロボー」よ。
「ステテコ」に「ハラマキ」でしょ、でこの「フロシキ」に生活用品を入れて、家々を訪問して販売するの。
頭にしてるのは「頬かむり」。あの国の人たちは恥じらいが美徳なの。
私、あの国の文化にすごく興味があって…え?間違ってる?
「ドロボー」って犯罪者のことなの?
あらやだ、チャーリーったら言ってくれればいいのに。私今まで正装だと思ってたわ。
結婚式もこれで出ようって言ったらゲラゲラ笑って「頼むからやめてくれ」って言った理由が今わかった。
あの人、帰ってきたらただじゃおかないから…。
まあいいわよね。今日はお祭りですもの。
仮装した子供が家を訪ねてお菓子をもらう、そういうお祭りですものね。
息子も「バカ殿」ファッションで決めてさっき飛び出していったわ。
知らない?「バカ殿」。
あの国の国家元首は代々その格好で…え?それも違う?あらどこで間違ったのかしら。
まあいいわ。どっちにしろ仮装には違いないし、あなたもそうなんでしょ。
そのボロボロの服と、青白い顔ってことは、わかった、ゾンビでしょ。
うん、なかなかイケてる。
でも演出が足りないかな。
そんな細い手足でブルブル震えてたら、ゾンビというよりバンビね。凄みが足りない。
もうちょっと頭の辺からケチャップ垂らしたらいい感じ。
ちょっと待っててね、台所にあるから…ほら、わあ毒々しい。
ああ、今舐めちゃだめ。
ポテトあげるから、みんなを驚かせて家に帰ってからそれつけて食べなさい。
ええ?家がわからない?自分の家がわからないの?ほら、顔をあげて。
…駄目よ。わからないふりをしては。
ゾンビみたいな格好をしてても、あなたにはちゃんと家がある。
待っててくれるお父さんやお母さんがいるでしょう?
ニコニコしながら、あなたがどれだけみんなをびっくりさせたか聞いてくれるわ。
役に飲まれてはいけない、確かな現実の自分があって、その上で役というものは成立するのだと夫も言っていた…ような気がするわ。よく覚えてないけど。
あなたジェイムズさんとこのミシェル君?ハリガンさんちのシビー君かな?
とにかくいろいろな家にいくのはいいけど、最後はちゃんと帰りなさい。
それで、もし本当にわかんなくなったら、ここに戻ってきなさい。あたしが一緒に家を探してあげる。
二人であなたの親を驚かせてあげよう、ね?
じゃあポテト持ってくるから待っててね。
あら…。どこ行っちゃったのかしら?あの子…。
自宅の玄関にて
チャーリーの妻