チャーリー軽木の記録(パンフレットに寄せたコメント)

劇場公演第2弾「その日 韮原さん 疑惑を抱く」より

「調子はどうだい、チャーリー?」
小さな人形に話し掛ける息子は、片手にもう一人、私の親友ジョーンズ氏に見立てた人形を持っている。
どうやら昨日の私とジョーンズ氏の会話を真似ているらしい。
おもちゃの船にあるプールから上がった場面のようだ。
「こっちへおいで。いつまでもそこで遊んでいてはいけないよ。」
私は息子の体を抱え、水の中に引き込む。少し緊張しているようだが息子は怖がっていない。
今年の夏が終わるまでには、一人で泳げるようになるだろう。

子供用プールの端までバタ足で連れていくとジョーンズ氏が立っていた。
「調子はどうだい、チャーリー?」
独特の訛りがある彼は、昨日と同じ調子で笑っていた。
彼はほとんど裸で、紐のような黒の海パンをはいているだけだったが、頭髪と同じ黒く濃い体毛が身体中を覆っているので、本当に海パンをはいているかは怪しかった。
実際ジョーンズはたまに素っ裸でいるときがある。
「大人用プールにいこう」
私は少し心配だったが、彼の誘いに息子は乗り気だったので、三人でプールサイドを乗り越え、大人用に入る。
このプールはドーナツ型で、中心に子供用があるのだ。

プールを泳ぎきると、制服姿の男が一人立っていて、私に声をかけた。あの独特の訛りだ。
「調子はどうだい、チャーリー?」
船長は私達に、船がもうすぐ対岸に着くことを告げた。
この巨大な船も、息子のように無事泳ぎきったというわけだ。
プールから上がり、デッキから客室に戻る。
「船長は僕と同郷なんだ。」服を着ながらジョーンズ氏が言った。

船をおりると、船着場に小柄な東洋人の女の子が立っていた。
以前私が演出を担当した劇団の女の子だ。
手には数十枚の紙束。どうやら台本らしい。
またこの劇団の演出を依頼されていたことを思い出し、今度は私が泳ぐ番だと思った。
今度のプールはどれだけ広く、大きいのだろうか?私はうまくバタ足ができるだろうか?
女の子が言った。
「調子はどうだい、チャーリー?」
独特の訛りだった。彼女はここに来るまでに、ジョーンズ氏の故郷を通ってきたようだ。

避暑地の湖にて
チャーリー軽木

劇場公演

Mama-チャリカルキ

Mama-チャリカルキ 番外編

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