チャーリー軽木の記録(パンフレットに寄せたコメント)

劇場公演第13弾「この人と生く。~瀬良美さん達の一週間~」より

「ハッケヨーイ、のこった!」
前に着いた手を離し、合図と共に地面を蹴る。
初冬の陽射しは庭を暖かく照らし、緑の芝生に書かれた白い「ドヒョー」のラインを浮き上がらせている。
私の突進力はまだ落ちていない。これなら妻を一瞬の内にはじき出すだろう。
ところが向かい合った妻は、合図と同時に手を前に突き出し、パチンと何か音を出した。
一瞬目の前が真っ暗になった。

事の起こりは一月前だ。
妻が選んできた洋服があまりに趣味が悪いので腹を立てたら、「では『スモー』で決着を付けましょう」と言う事になった。
私が芝居の演出の仕事で東洋の国に行った時に覚えた、この原始的で単純なスポーツを家族は大いに気に入ったのだ。
以来我が家では争いごとが起きるとこうして「スモー」を行い、勝った方の言い分を通す事になっている。
今日は息子が行事で、私と妻が対戦する形だ。
妻と息子の場合もあるし、私と息子の時もある。

ただし、それぞれの体格や体力の差を埋める為に、それぞれに大きさの異なる「ドヒョー」が与えられている。
私は一番小さく、息子は一番大きい。妻はその中間である。
つまり今我が家の庭には二重にラインが引かれており、私が勝つ為にはラインの中で手をつかせるか、外側のラインから妻を押し出すしかない。
妻は私の手を引っ張って私のテリトリーから出すと言う勝ち方もある。
最近は町でこれが流行っているらしく、子供達の遊びにもなっている。

目を開けると妻が居ない。身体を返す。
後ろに回り込んで背中を押そうとしている妻に気付き組み直す。
がっぷり四つだ。このまま押して行こうと力を込めるが動かない。
互いに有利な体勢を取ろうともみあう。
息子が「のーった、のーった」と甲高い声を上げている。
近所の子供達の歓声も聞こえる。どうやらギャラリーは妻寄りのようだ。
妻も私もうっすらと汗をかいている。

「お前、太っただろう」とつぶやくと押し返す力が大きくなった。
「うまく行くと思ったのに、子供騙し」え?それを言うならネコダマシだろう。
と思ったら身体が回転した。妻のかけた足に私はバランスを崩したのだ。
青く高い空が私の正面に来た。背中に地面を感じた。
負けた。歓声が上がる。
息子が妻に付けた適当なしこ名を叫んでいる。妻の輪は少し小さくすべきかもしれない。
これから、息子の持つドヒョーの輪はどんどん大きくなる。
私の輪は、まだ暫くこのままだろうが、やがて大きくなって行くだろう。
いつか、全員が同じ大きさの輪の中でスモーを取る日が来るだろう。
誇らしげに手刀を切る妻の横で横になったまま、あの服をチャリカルキのメンバーがどう評価するかを、私は考えていた。

我が家の庭で
チャーリー軽木

劇場公演

Mama-チャリカルキ

Mama-チャリカルキ 番外編

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