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〜第一弾「メゾン・ド・金春の二人組達」より〜

後八時。
いつものように、私がカウンターで陽気なトルコ人マスター・ハッサン氏と、
『犬は家畜かペットか』を議論している時、その小柄な男はやってきた。
彼は貧相な身なりで同じ位の背の女の子をつれていたが、 私の隣の席に座ると、
まるで待ち合わせの相手にあったかのような口調で、初対面の私に話しかけてきた。
「早速だけど、演出のほうをお願いしますよ。」何よりまず要求が出た。
「それからビールください。」これはハッサン氏に。
「すみません、灰皿をこっちにもらえますか。」要求が多い。
しかし、ビールを二杯飲む前に、彼は自己紹介とどんな芝居をやりたいかを
説明し終えてしまった。要領がいいのか悪いのかわからない。とにかく慌しい男だ。

「そっちの娘は…」私はさっきから一言も言わない女の子の事が気になった。
その男と共演するというその女の子は、じっと一点を見つめている。
何を見ているのかと思ったら、マスターのハッサン氏だ。
何やらぶつぶつ言っている。ハッサン氏の口真似をしているのだ。
私に観察しているのを観察されたのに気づくと、
内気な子供のようにうつむいてしまった。

「彼女、空いちゃったんですよ、スケジュールが。で僕も書いてみたくて、芝居を。
バイトが一緒で。んで、やってみようかって事になって。」
中学生の英語訳のようだ。だが、大体のことは判った。
彼は劇団に所属しているようなのだが、なぜそこの活動とは別な形をとるのだろう。
「だって、やってみたくなったんだもん。台本も、書いたもん。」
口調がどんどん子供になってきた。いつのまにか焼酎のボトルを半分ほど空けている。
「やってみなくちゃ、何は無くともさ。」
『なにはともあれ』だと思うのだが、前を見たまま頷いている女の子を見て、
この二人には『何は無くとも』が合っている気がした。

程なく座ったまま複雑な姿勢で男は寝てしまった。
すると、女の子がカバンからワープロで打った数十枚の台本を出して、
読んでみてくれというのだ。
三杯目のウイスキーを頼みながら、私はどういうふうに演出しようか考えていた。
酒が来ないので見ると、ハッサン氏が焼酎のボトルに書かれた名前を読みながら、
「チャリカルキて何?ビーグルて、食べられる犬?」と独り言を言っていた。
女の子はもちろんそれを口の中で一生懸命真似していた。

 

いつもの店のカウンターにて   

チャーリー軽木