チャーリー軽木の妻の記録(パンフレットに寄せたコメント)

Mama-チャリカルキ vol.6「脚立。」より

「もう、軽木の姓を名乗らなくていいんだよ。」
彼はそう言って、腕時計を見る。
あたしは最初、それが別れの言葉だとわからなくて聞き返す。
「パードン?」
窓の外は腰が抜けるほど晴れていて、どこかに居るはずのヒバリの声だけが聞こえる。
息子もお寿司は食べ飽きて、ブーリの店に行ってる。
もって回った言い方で別れを告げた夫は、急に理路整然と別れるわけを語りだす。
一つ、あたしがジャムのしまい場所を忘れて何度も買ってくること。
一つ、あたしが息子の運動会でハリガンさんの奥さんを投げ飛ばしたこと。
あ、でもこれは仕方ないのよ。
だってあの人、親子レースで前走ってたジェフリー君の足引っ掛けたんだから。
息子がゲラゲラ笑って拍手喝さいっだったわ。
そして一つ。あたしが買ってきたスーツの色がひどくて、周囲の人にノイローゼじゃないかと心配されたこと。
あら、これだってあたしだけのせいじゃないわよね。あの人喜んで着ていったんだもの。
とにかくそんなこんなを並べて、あの人はあたしの反応を待っている。

あたしは混乱して叫ぶ。
「なわーっ!」って、…ごめんなさい、びっくりした?
あ、ノリマキ縦に切っちゃった?いいわ、貰うから。
でもほら、あたし昔から良く叫んだでしょ、なわーって。ああ、懐かしかった?
チャーリーは黙ったまま、今度のお芝居の演出で使うかもしれない小道具のリカチャン人形を握りしめる。
「コンニチハ、アタシリカチャン!」
…知らないわよ、そういうおもちゃがあるの、あの国には。
あたしは叫びながら、頭の隅っこで「あたし一人で息子のいたずらを抑えきれるか」って考える。
そのうちお客が入ってきてあなたが威勢良く「へいらっしゃい!」。
外ではヒバリがチュンチュルリ、中ではあたしがなわー!リカチャン人形コンニチハ!お客が入ってへいらっしゃい!。
外ではヒバリがチュンチュルリ、息子がいたずらブーリが「こらー!」中ではリカチャンコンニチハ!
外ではとんびもピーヒョロロ、ブーリが怒ってコノヤロー!アタシリカチャンアソビマショ!どんどんお客が「ヘイラッシャイ!」

…呆れてる?
そうね。あたしも呆れてる。あたしお芝居書く才能ないわね。
うん、わからない。想像できないわ。チャーリーと別れるシーンなんて。
だから、兄さんと義姉さんの問題には力になれそうにないわ。ごめんなさい。
チャーリーに任せるわ。
…何よ、「判ってた」って。失礼ね。
あの人遅いわね。何してんのかしら。
…あ。息子がまたブーリに追っかけられてる。いいわ。ほっときましょ。
ガリ頂戴、兄さん。

寿司バーにて
チャーリーの妻

劇場公演

Mama-チャリカルキ

Mama-チャリカルキ 番外編

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