チャーリー軽木の記録(パンフレットに寄せたコメント)

劇場公演第11弾「そこは山中山君の席。」より

ャリカルキという劇団の演出をする期間は、大概この町に滞在するので、
いやでも詳しくなってしまう。
「ドリームランド」とは、日本一無口な床屋と、世界一出さないパチンコ屋(事実である。今まで私は勝ったことがない)の間にある、宇宙一さびれた遊園地のことだ。
いや、遊園地というのはおかしい。
そこには空き地に乗り物が二つあるだけで、後は何もない。
落書きされて「トタームヲンド」になっている看板と、店主のオヤジが昼寝する小屋がある他はむき出しの地面だ。
雨上がりには泥んこ祭りか田植えができそうだ。
公園以下である。

それでもたまに若い親子が訪れたりする。
きっと引っ越してきたばかりなのだろう。
客を見つけると親父は小屋から這い出し、回転木馬のエンジンをかける。
この回転木馬は、ディーゼルで動くのだ。
やかましいことこの上ない。
四頭しかいない馬がぐるぐる回るのだが、その内二頭は頭がもげてしまっている。
落馬の危険があるので、残りの二頭に乗って、首なし馬に追いかけられるしかないのだ。
子供には十分なトラウマになるだろう。
BGMはオヤジの歌う「昭和枯れススキ」だ。

もうひとつはパイレーツのようなブランコだが、これの動力はオヤジである。
もともとディーゼルで動くはずが、エンジンが壊れたため人力で動かしている。
ブランコが重いためなかなか動かないが、勢いがつくとやめてといっても止まらない。
自然に止まるのを待つしかなく、子供は回転木馬で泣くか、ブランコで吐くかのどちらかである。
私はあそこで喜んでいる子供の姿を見た記憶がない。

そんな恐ろしい娯楽施設がなぜなくならないのか、オヤジに尋ねると、爪楊枝をくわえたままこう言うのだ。
「息子が遊びにくるからな。」
彼の別れた妻子は遠くの町に住んでおり、いつか訪れるであろう息子の為に、彼は自分の工場を潰してドリームランドを作ったのだそうだ。
現在、3Dシアターを作ろうか検討中である。

しかし、私は知っている。
町の人々も皆知っている。
彼が結婚などした事がない事を。
かつて彼の両親が事業に失敗し、遊園地に彼を残したまま失踪してしまった事を。
床屋でさっぱりした父親や、パチンコで小遣いがさっぱりした母親が泣き叫ぶわが子を連れて帰る時、彼は例えようのない穏やかな笑顔で見送るのだ。
「また来てね」と。

いつの日か、強靭な三半規管を持ち、悪夢が大好きな子供たちで、このドリームランドがいっぱいになる事をオヤジは信じている。
私も信じている。

ドリームランドにて
チャーリー軽木

劇場公演

Mama-チャリカルキ

Mama-チャリカルキ 番外編

このページのTOPへ